地方での営農型太陽光発電事業:建設・土木業が押さえるべきポイント
営農型太陽光発電とは:農業と発電事業の両立
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリングとも呼ばれます)は、農地に支柱を立てて上部に太陽光発電設備を設置し、農業を継続しながら発電事業を行う取り組みです。これにより、農地の有効活用と再生可能エネルギーの導入を同時に進めることが可能となります。
地方において、耕作放棄地の活用や農業収入の安定化、地域活性化といった側面から注目されており、建設・土木業にとっても新たな事業機会となり得ます。建設・土木分野で培った造成、基礎、構造に関する技術や、地域での事業経験を活かせる分野と言えるでしょう。
建設・土木業にとっての事業機会
営農型太陽光発電事業は、設備の設置において建設・土木技術が不可欠です。具体的には、以下の領域で建設・土木業の専門性が活かされます。
- 農地の造成・整地: パネル設置に適した土地の状態にするための工事
- 基礎工事: 支柱を安定的に固定するための基礎(杭打ち、コンクリート基礎など)の設計・施工
- 架台・支柱の設置: パネルを支持する架台や支柱の組み立て・設置工事。農作業に支障がないよう、適切な高さや配置の設計・施工が必要です。
- 電気設備工事: パネル、パワーコンディショナ、送電設備などの設置工事(電気工事士の資格が必要な範囲を含む)
- 関連構造物の設計・施工: フェンス、管理小屋、アクセス道路などの整備
また、事業全体の企画・設計、許認可申請支援、メンテナンスなど、建設工事以外の領域でもサービスを提供することで、事業領域を拡大できる可能性があります。
事業化に向けたプロセスと建設・土木工事の役割
営農型太陽光発電事業の主なプロセスと、建設・土木業が関わるポイントは以下の通りです。
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企画・検討:
- 候補地の選定(農地種別、日照条件、電力系統への接続性など)
- 事業スキームの検討(発電規模、農作物、収支計画)
- 建設・土木業としては、候補地の造成可能性や基礎工事の難易度、概算工事費などを技術的な視点から提案します。
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設計・許認可申請:
- 設備の設計(パネル配置、架台構造、高さなど)
- 農地転用許可申請(一時転用)
- 電気事業法に基づく事業計画認定申請(FIT/FIP制度を活用する場合)
- 建設業は、設備の構造設計、基礎設計を行い、これらの図面や計算書を農地転用申請や事業計画認定申請に用いる資料として作成します。
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建設工事:
- 農地の造成・整地
- 基礎工事(支柱の設置)
- 架台の組み立て・設置
- 太陽光パネルの設置
- 電気設備の設置・配線
- フェンス、管理小屋等の設置
- 建設・土木業の主たる業務領域です。設計図に基づき、安全かつ品質基準を満たした施工を行います。特に農地での工事となるため、土壌への影響を最小限に抑える配慮や、営農に配慮した工期・工法の検討が求められます。
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運転・保守:
- 発電設備の運転管理
- 定期的なメンテナンス、点検
- 建設・土木業が、設備の基礎や架台の点検・補修、フェンス等の維持管理を受託するケースもあります。
建設・土木工事における特有の留意点
営農型太陽光発電の建設工事は、一般的な産業用太陽光発電と異なり、農地という特殊な環境で行われるため、いくつかの留意点があります。
- 農地法との整合性: 農地の一時転用許可が必須であり、許可条件として「営農の適切な継続」が求められます。パネルの設置高さや配列が農作業の妨げにならないか、日陰の影響が農作物の生育に著しい被害を与えないかなどを十分に検討し、設計・施工に反映させる必要があります。基礎の種類や施工方法も、将来的な原状回復義務を考慮して選定することが重要です。
- 構造設計と基礎: 架台構造は、積雪量、風荷重、地震荷重などを考慮した適切な設計が必要です。また、農地の土壌条件は場所によって大きく異なるため、地盤調査に基づいた適切な基礎設計・施工が求められます。軟弱地盤の場合は、杭の種類や長さ、打設方法に高度な技術と経験が必要となります。
- 農作業への配慮: 建設期間中も可能な範囲で営農を継続する場合や、工事完了後の農作業を円滑に行えるように、工事車両の導線、資材置き場、作業スペースなどを計画する際に、営農者との連携が不可欠です。
- 安全管理: 農地は平坦でない場合や、ぬかるみやすい場所もあるため、重機搬入や高所作業における安全対策は特に重要です。一般的な建設現場に加え、農業機械の稼働なども想定した安全管理計画が必要となります。
- 自然環境への配慮: 農業が行われている土地であるため、土壌汚染や周辺環境への影響を最小限に抑えるよう、適切な施工管理が求められます。
関連法規・制度の理解
営農型太陽光発電事業を推進する上で、建設・土木業も関連する法規や制度の概要を理解しておくことが望ましいです。
- 農地法: 最も重要となる法律です。農地に発電設備を設置するためには、原則として農地の一時転用許可が必要です。許可基準は各市町村の農業委員会が判断しますが、営農の継続性や周辺農地への影響が厳しく審査されます。
- 電気事業法: FIT(固定価格買取制度)やFIP(フィードインプレミアム)制度を活用して売電を行う場合、事業計画の認定が必要です。設備の仕様や事業計画が認定要件を満たす必要があります。
- 建築基準法: 構造物としての架台や管理小屋等が建築基準法の適用を受ける場合があります。適切な構造計算や確認申請が必要となるか、設計段階での確認が重要です。
- その他: 森林法、河川法、自然公園法など、設置場所の立地によっては追加の許認可が必要となる場合があります。
また、国や自治体が提供する再生可能エネルギー導入に関する補助金や融資制度も存在します。これらの制度を事業計画に組み込むことで、初期投資の負担軽減や資金調達を円滑に進められる可能性があります。
建設・土木業の強みを活かす
地方の建設・土木業は、地域における施工実績、協力会社ネットワーク、土地や自然条件に関する知見、そして地域住民や行政との関係性といった独自の強みを持っています。これらの強みを活かすことで、営農型太陽光発電事業において競争力を発揮することが可能です。
- 地域特有の条件への対応: 地方の気候(豪雪地帯、台風常襲地帯など)や地盤条件、農地の利用状況に合わせた最適な工法や設計を提案・実行できます。
- 迅速な対応とフットワーク: 地域に根差しているため、計画段階での現地調査や、建設中の急な変更、工事後のメンテナンス依頼などに対して迅速に対応できます。
- 地域との連携: 営農家や地域住民との信頼関係を築き、事業への理解や協力を得やすくなります。これは、農地転用許可申請や事業推進において非常に重要な要素です。
まとめ
営農型太陽光発電は、地方における再生可能エネルギー導入の一つの有望な形であり、建設・土木業にとって新たな事業機会をもたらす分野です。農地という特殊な環境での事業となるため、農地法をはじめとする関連法規の正確な理解、農業との両立を考慮した設計・施工技術、そして地域との円滑な連携が成功の鍵となります。
貴社の持つ建設・土木技術と地域の強みを活かし、営農型太陽光発電事業への参入を検討されることは、事業の多角化だけでなく、地方の農業振興や再生可能エネルギーの普及に貢献することにも繋がるでしょう。まずは情報収集を進め、専門家への相談や既存事例の研究から始めてみてはいかがでしょうか。