地方のため池、水路、遊休地を活用した再エネ導入:建設・土木業の事業機会と留意点
地方における既存インフラ活用の重要性
地方には、農業用ため池、かんがい用水路、耕作放棄地、工場跡地といった既存のインフラや遊休資産が数多く存在します。これらの既存資産を再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の設置場所として有効活用することは、新たな土地の造成が不要となる場合があることや、地域に根差した分散型エネルギー源を構築できる点で、地方創生にも資する取り組みとして注目されています。
建設・土木業を営む皆様にとって、これらの既存インフラを活用した再エネ導入事業は、新たな事業機会となり得ます。長年培ってきた地盤、構造物、水利、土地利用に関する専門知識と技術は、これらの特殊な立地での再エネ設備建設において不可欠な要素となるためです。
活用可能な既存インフラと関連する再エネ技術
地方に多く見られる既存インフラと、その活用が想定される主な再エネ技術は以下の通りです。
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ため池:
- 水上設置型太陽光発電: 水面にフロートを浮かべ、その上に太陽光パネルを設置する方式です。水面を活用するため新たな土地を必要とせず、また水による冷却効果で発電効率が向上する場合があるといったメリットがあります。建設・土木業にとっては、フロートシステムの設置、アンカー工事、送電設備への接続工事、水上での作業安全管理などが主要な業務となります。
- 小水力発電: ため池の取放水設備や、ため池からの流下を利用して小規模な水力発電を行うことが考えられます。既存の構造物(取水口、導水路など)の改修や、タービン・発電機を設置する建屋の建設・基礎工事、送水路の整備などが建設・土木業の技術が活かされる分野です。
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水路:
- 小水力発電: 農業用水路や工業用水路といった既設の水路に、流れ込み式や落差工を利用した小水力発電設備を設置する方式です。大規模なダムを必要とせず、既存インフラをそのまま活用できる点が特徴です。水路構造の補強・改修、取水・放水設備の設置、水圧管路や建屋の建設・基礎工事など、水利構造物に関する専門知識が特に重要になります。
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遊休地(耕作放棄地、工場跡地、資材置場跡地など):
- 地上設置型太陽光発電: 最も一般的な遊休地活用法です。農地転用や土地改良、適切な基礎工事(杭打ち、コンクリート基礎など)が建設・土木業の主な業務となります。土地の状況に応じた造成や排水対策も重要です。
- 小型風力発電: 土地の広さや風況によっては、比較的小型の風力発電機を設置することも可能です。タワー基礎や周辺構造物の工事が必要となります。
- バイオマス発電関連施設: 木質バイオマスや家畜排泄物などを燃料とするバイオマス発電施設本体や、燃料の保管・処理施設、ガスホルダーなどの建設・基礎工事も遊休地で実施される可能性があります。
建設・土木業における具体的な事業機会
これらの既存インフラを活用した再エネ導入事業において、建設・土木業が担う役割は多岐にわたります。
- 事前調査・設計協力: 既存インフラの構造安全性評価、地盤調査、水利量調査、現地測量、法規制の確認など、事業の実現可能性を判断するための初期段階での調査・設計協力。
- 造成・土地改良: 必要に応じて土地の均平化、地盤改良、排水路整備などを行います。特に耕作放棄地などを活用する場合に重要となります。
- 基礎工事: 太陽光パネル架台、風力発電タワー、小水力タービン建屋、バイオマス施設などの基礎を、現地の地盤条件や構造物の特性に合わせて設計・施工します。水上太陽光の場合はフロート係留のためのアンカー工事が含まれます。
- 構造物工事: 水路の改修・補強、取水堰や沈砂池の設置・改修、発電設備を格納する建屋の建設など、水利・建築構造物の工事を行います。
- 設備設置・配管工事: パネル架台の設置、水圧管路の敷設、設備の搬入・据付サポートなども、土木工事と連携して行われる場合があります。
- 送電線・接続工事: 発電した電力を電力系統に接続するためのケーブル敷設、電柱設置、変電設備基礎などの工事も重要な業務です。
- O&M(運用・保守): 完成後の施設の点検、修繕、補修、周辺環境の維持管理など、建設・土木技術が必要となる保守業務も新たな事業機会となります。
事業推進上の留意点
既存インフラを活用した再エネ導入には、通常の開発とは異なる留意点が存在します。
- 法規制・許認可: ため池や水路は河川法、水利権、農業用施設に関する法令が複雑に関わる場合があります。遊休農地の活用には農地法の転用許可が、工場跡地の場合は土壌汚染対策法が関連する可能性もあります。これらの法規制を十分に理解し、必要な許認可手続きを正確に行うことが不可欠です。
- 既存構造物の評価: 既存のため池堤体や水路構造物の強度・安定性を正確に評価し、再エネ設備設置による影響(荷重増加、水圧変化など)がないか、または必要な補強を行う必要があります。老朽化している場合は大規模な改修工事が必要となるケースもあります。
- 環境影響評価: 特に水上太陽光や小水力発電では、水質や生態系への影響を詳細に調査・評価し、適切な環境保全対策を講じる必要があります。地域の自然環境や景観への配慮も求められます。
- 地域との合意形成: ため池や水路は地域の共有財産であることが多く、周辺住民や農業・水利関係者の理解と協力が不可欠です。事業計画段階から地域住民への丁寧な説明と合意形成を図ることが、円滑な事業推進の鍵となります。
- 事業採算性: 既存インフラの活用は土地取得コストを抑えられる場合がありますが、既存構造物の改修費用や特殊な基礎・設置工事費用、複雑な許認可手続きに係る費用が発生する可能性があります。これらのコストを正確に見積もり、事業全体の採算性を慎重に評価する必要があります。
成功に向けたポイント
地方の既存インフラを活用した再エネ事業を成功させるためには、以下の点が重要になります。
- 多分野連携: 土地・水利に関する専門家、法務専門家、環境コンサルタント、再エネ設備メーカー、電力会社など、様々な関係者との連携が不可欠です。建設・土木業は、自身の専門性を活かしつつ、これらの関係者との調整役としても重要な役割を担えます。
- 事前の詳細な調査: 既存インフラの状態、地盤、水利、周辺環境、関連法規などを徹底的に調査し、潜在的なリスクや課題を早期に洗い出すことが重要です。
- 地域ニーズの把握: 地域が抱える課題(電力コスト、遊休資産活用、雇用創出など)を把握し、再エネ事業が地域にどのようなメリットをもたらすかを明確にすることで、地域からの理解や協力を得やすくなります。
まとめ
地方のため池、水路、遊休地といった既存インフラの活用は、地方における再エネ導入を加速させる potentな手法であり、建設・土木業にとって新たな事業領域を開拓する大きな機会となります。しかし、これらの特殊な立地での事業推進には、通常の再エネ開発にはない技術的・法規的、そして社会的な留意点が存在します。
長年培われた建設・土木技術と、再エネ分野固有の知識・ノウハウを組み合わせることで、これらの課題を克服し、地域の特性を活かした持続可能な再エネ事業を創出することが可能です。本記事が、皆様の事業検討の一助となれば幸いです。