地方再エネ事業参入のためのデューデリジェンス:建設・土木業が知るべき技術的・法的検討ポイント
地方再エネ事業におけるデューデリジェンスの重要性
地方における再生可能エネルギー(以下、再エネ)事業への参入を検討されている建設・土木業の皆様にとって、事業の健全性と持続可能性を確保するために不可欠なプロセスが「デューデリジェンス(Due Diligence)」です。デューデリジェンスとは、 M&Aや事業投資などの意思決定を行う際に、対象となる事業や企業の価値、リスク、収益性などを詳細に調査・評価する一連の手続きを指します。
再エネ事業は、長期にわたる安定的な電力供給を前提とするため、初期段階での適切なリスク評価が極めて重要です。特に地方での事業展開においては、地域特有の環境要因、法規制、社会受容性など、多岐にわたる要素を複合的に分析する必要があります。建設・土木分野で培われた技術的な知見は、再エネ設備の設置場所や構造、施工方法に関する技術的デューデリジェンスにおいて大いに活かすことができます。
本稿では、建設・土木業の視点から見た、地方再エネ事業におけるデューデリジェンスの主要な検討ポイントについて解説します。
デューデリジェンスの種類と建設・土木業の関与領域
再エネ事業におけるデューデリジェンスは、主に以下の種類に分類されます。
- 技術的デューデリジェンス (Technical Due Diligence; TDD): 設備の技術仕様、設計、建設状態、性能、O&M計画、系統連系状況などを評価します。建設・土木業の技術的な専門性が最も活かされる領域です。
- 法的デューデリジェンス (Legal Due Diligence; LDD): 事業に関連する土地所有権、賃借権、許認可、契約関係、環境法規遵守状況などを評価します。
- 環境的デューデリジェンス (Environmental Due Diligence; EDD): 設置場所の環境リスク(土壌汚染、地下水汚染、生態系への影響など)や環境法規制への適合性を評価します。建設・土木工事に伴う環境影響評価や対策の経験が役立ちます。
- 財務的デューデリジェンス (Financial Due Diligence; FDD): 事業の収益性、コスト構造、資金調達計画、税務などを評価します。
- 商業的デューデリジェンス (Commercial Due Diligence; CDD): 市場規模、競合状況、需要予測、電力販売価格などを評価します。
建設・土木業の皆様が再エネ事業参入の検討において特に注力すべきは、技術的、法的、環境的デューデリジェンスであり、これらの評価には既存の専門知識や経験を応用することができます。
技術的デューデリジェンスの主要検討ポイント
建設・土木業の視点から技術的デューデリジェンスで確認すべき具体的な項目を挙げます。
- 用地・地盤評価:
- 候補地の地形、傾斜、地質、地盤強度。構造物の基礎設計に不可欠な情報です。
- 活断層、土砂災害特別警戒区域、洪水浸水想定区域などの自然災害リスク評価。ハザードマップ等を確認します。
- 過去の土地利用履歴や造成状況。
- 構造・設備評価:
- 太陽光パネル架台や風力発電タワーなどの構造設計の妥当性。風荷重、積雪荷重、地震荷重に対する安全性の確認。
- 主要設備の技術仕様、メーカー、品質、認証状況。
- 既設設備の劣化状況、残存耐用年数評価(M&Aの場合)。
- 系統連系:
- 最寄りの電力系統への接続容量、距離、連系工事費用の概算。電力会社との協議状況。
- 連系点の技術的課題(電圧変動、フリッカーなど)の有無。
- 施工計画・品質:
- 提案されている施工計画の実現可能性、工程、コストの妥当性。
- 過去の施工実績や品質管理体制の確認。
- 運用・保守(O&M)計画:
- 提案されているO&M体制、内容、費用。長期的な発電性能維持の観点から評価します。
法的・環境的デューデリジェンスの主要検討ポイント
事業計画の実行可能性に直結する法的・環境的側面についても、建設・土木業の視点から確認すべき事項があります。
- 土地に関する権利:
- 候補地の所有権、地上権、賃借権の明確性。登記簿謄本や契約内容の確認。
- 複数の権利者がいる場合の合意形成状況。
- 許認可・届出:
- 事業に必要な各種許認可(電気事業法、建築基準法、農地法、森林法など)の取得可能性や進捗状況。
- 地域特有の条例や開発規制への適合性。
- 環境法規・アセスメント:
- 環境影響評価(環境アセスメント)の要否と進捗状況。小規模な事業でも自治体独自の条例によるアセスメントが必要な場合があります。
- 鳥獣保護区、自然公園、景勝地などの規制区域への影響。
- 土壌汚染対策法に基づく調査義務の有無。
- 契約関係:
- EPC契約、O&M契約、電力販売契約(PPAなど)の内容とリスク評価。
- 地域住民や関係者との間で締結された協定や同意の内容。
デューデリジェンスの進め方と建設・土木業の役割
デューデリジェンスは通常、専門家チーム(弁護士、公認会計士、技術コンサルタントなど)を組成して実施されます。建設・土木業の皆様が事業主体としてデューデリジェンスを主導する場合、自社の技術者や専門知識を活かしつつ、必要に応じて外部の専門家と連携することが重要です。
特に、地盤調査結果の解釈、構造設計のレビュー、施工方法の評価、自然災害リスクの特定といった技術的な側面においては、建設・土木分野で培った経験が大きな強みとなります。また、環境アセスメントのプロセスや、工事に伴う環境対策の検討においても、その経験は有効です。
デューデリジェンスの結果、特定されたリスクに対しては、契約条件の交渉、追加調査の実施、リスク軽減策の導入、事業計画の見直しといった対応が必要となります。建設・土木業として、これらのリスク対策の具体的な技術的・工学的側面から助言や実行を担うことが期待されます。
結論
地方での再エネ事業参入は、建設・土木業にとって新たな事業機会をもたらしますが、同時に多岐にわたるリスクも存在します。これらのリスクを事前に正確に把握し、適切に評価・対策するために、徹底したデューデリジェンスは不可欠です。
特に、技術的、法的、環境的な側面におけるデューデリジェンスは、建設・土木業が持つ専門知識と経験を最大限に活かせる領域です。適切なデューデリジェンスを実施することで、予期せぬ問題の発生を抑制し、事業の採算性や安全性を高め、長期的な事業成功の確度を向上させることができます。再エネ事業への参入を検討される際は、デューデリジェンスを事業計画の初期段階から重要なプロセスとして位置づけ、積極的に取り組んでください。