地方での再エネ事業における土地利用規制とゾーニング:建設・土木業が知るべき法的ポイント
はじめに
地方における再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入は、地域経済の活性化や脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みです。特に太陽光発電や風力発電、バイオマス発電などの大規模な設備設置には、広大な土地が必要となるケースが多く、それに伴う土地利用に関する様々な法的規制や行政の定めるゾーニングは、事業計画を進める上で避けて通れない要素となります。
建設・土木業の皆様が再エネ分野への事業参入や多角化を検討される際、設備の基礎工事や造成、アクセス道路の整備といった直接的な工事に加え、事業用地の選定や許認可手続きにおいても、土地利用に関する専門知識が不可欠となります。本稿では、地方での再エネ事業において建設・土木業の皆様が知っておくべき、土地利用規制とゾーニングに関する法的ポイントについて解説いたします。
再エネ事業に関わる主な土地利用規制
再エネ設備を設置する土地の種別や場所によって、適用される法律や条例が異なります。特に地方では、都市部とは異なる特性を持つ土地が多く存在するため、以下の主要な土地利用規制を理解しておくことが重要です。
- 農地法: 農地の保全を目的とする法律です。農地に太陽光発電設備等を設置する際には、原則として農地転用許可または届出が必要となります。特に優良な農地(甲種・第1種農地)への転用は厳しく制限されています。営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)など、営農との両立を前提とする場合は特例がありますが、それでも許可基準を満たす必要があります。
- 森林法: 森林の整備・保全を目的とする法律です。森林を開発して再エネ設備を設置する場合、面積に応じて林地開発許可が必要となる場合があります。保安林に指定されている区域などは、開発行為が厳しく制限または禁止されています。
- 都市計画法: 都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための法律です。市街化区域や市街化調整区域など、都市計画区域内での開発行為には開発許可が必要となる場合があります。また、用途地域ごとに建築物の用途や規模が制限されるため、設置しようとする再エネ設備がその用途地域に適合するか確認が必要です。
- 自然公園法、自然環境保全法、鳥獣保護管理法: 国立公園、国定公園、県立自然公園などの自然公園区域や、自然環境保全地域、鳥獣保護区内での開発行為は、規制を受ける場合があります。景観保護や生態系保全の観点から、設置場所が制限されたり、厳しい許可基準が設けられたりすることがあります。
- 文化財保護法: 周知の埋蔵文化財包蔵地等で土木工事を行う場合、事前に届出や試掘調査が必要となることがあります。再エネ設備設置のための造成工事などが対象となり得ます。
- その他関連法: 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律、砂防法、地すべり等防止法、河川法なども、土地の形状や周辺環境に応じて適用される可能性があります。
これらの規制は単独ではなく、複数の規制が複合的に適用される場合が一般的です。
ゾーニング規制と再エネ促進区域
地方自治体は、地域の特性や住民の意向を踏まえ、土地利用に関する独自のルール(ゾーニング)を定めている場合があります。特に再エネ導入に関しては、以下のゾーニングや制度が重要となります。
- 再エネ促進区域(同意・協定による調整): FIT/FIP制度において、市町村が条例に基づき、地域住民との合意形成が得られている区域を「再エネ促進区域」として指定できる制度です。この区域内での事業計画は、手続きの一部が合理化されるなどのメリットがある一方、指定区域外での事業に対しては、条例による開発抑制や上乗せ規制が設けられる可能性もあります。
- 景観条例: 地方自治体独自の景観条例により、再エネ設備の色彩や高さ、設置場所などが制限される場合があります。
- 環境保全条例: 環境への負荷が大きいと見なされる事業に対し、自治体独自の環境アセスメントやより厳しい環境基準を設ける場合があります。
事業を計画する際には、国が定める法律に加え、事業予定地が所在する地方自治体の条例やゾーニング規制についても、十分に調査・確認することが不可欠です。
建設・土木業が留意すべき法的ポイント
これらの土地利用規制やゾーニングは、建設・土木業の事業プロセスに直接的な影響を与えます。具体的には、以下の点に留意が必要です。
- 事業計画初期段階での詳細な規制調査: 用地の選定や取得に先立ち、候補地にかかる全ての規制(農地法、森林法、都市計画法など)と自治体の条例、ゾーニングを網羅的に調査することが極めて重要です。これにより、後の許認可取得の難易度や可能性を事前に判断できます。
- 許認可手続きへの関与と理解: 土地利用に関する許認可(農地転用許可、林地開発許可、開発許可など)は、原則として事業主体が行いますが、建設・土木業は、これらの許可取得の前提となる現地調査、測量、造成計画、構造設計などに関わることが多いため、手続きの内容、必要書類、標準的な期間などを理解しておく必要があります。許可条件が工事内容に影響する場合もあります。
- 設計・施工への規制の反映: 規制やゾーニングによって、設備の配置、高さ制限、植栽義務、緑地率、排水計画、使用できる建設資材などが指定される場合があります。これらを設計図書に正確に反映させ、施工段階で遵守することが求められます。例えば、自然公園区域内では景観に配慮した色彩制限があるかもしれませんし、砂防指定地付近では特定の土砂対策が求められるかもしれません。
- 地域住民との合意形成との連携: 再エネ促進区域制度のように、地域住民との合意形成が許認可の前提となる場合があります。建設・土木業は、工事内容の説明や、騒音・振動対策など地域住民の懸念事項への対応を通じて、合意形成プロセスを側面から支援する役割を担うこともあります。
- 行政機関とのコミュニケーション: 許可申請や事前相談において、行政機関(農業委員会、林野部局、都市計画部局、環境部局など)との円滑なコミュニケーションが不可欠です。建設・土木に関する専門的知見を行政側に分かりやすく説明する能力も求められます。
情報収集と専門家との連携
土地利用規制やゾーニングに関する情報は多岐にわたり、法改正や条例改正も行われます。常に最新の情報を得るためには、事業予定地の市町村役場や都道府県庁の担当部局に直接問い合わせることが最も確実です。また、これらの手続きや規制対応には高度な専門知識が必要となる場合が多いため、土地家屋調査士、行政書士、弁護士、都市計画コンサルタントなどの専門家と連携することも有効な手段です。
まとめ
地方での再エネ事業における土地利用規制とゾーニングは、単なる手続き上のハードルではなく、事業の成否や工事内容に直接関わる重要な要素です。建設・土木業の皆様におかれましては、これらの法的ポイントを正確に理解し、事業計画の初期段階から用地選定、設計、許認可手続き、そして実際の施工に至るまで、継続的に留意することが求められます。
正確な情報収集と関係機関、専門家との適切な連携を通じて、土地利用に関する課題を克服し、地方での再エネ事業の成功に貢献されることを願っております。