地方での再エネ事業における安全管理:建設・土木業が重視すべきポイント
はじめに
地方における再生可能エネルギー(再エネ)導入事業は、建設・土木業にとって新たな事業機会を提供していますが、同時に再エネ設備特有の安全管理に関する課題も存在します。建設・土木分野で培われた安全管理のノウハウは再エネ事業においても非常に重要ですが、太陽光パネルの設置、風力タービンの組立、地熱発電施設の建設など、再エネの種類やフェーズごとに固有のリスクが存在します。
本記事では、地方での再エネ事業に参入・拡大を検討されている建設・土木業の皆様に向けて、再エネ事業における安全管理の重要性、直面しうる固有のリスク、そしてそれらに対する具体的な対策について解説します。安全管理は、従業員の安全確保はもちろんのこと、プロジェクトの遅延防止、コスト増の抑制、地域からの信頼獲得、そして事業継続性の確保に不可欠な要素です。
再エネ事業における固有の安全リスク
再エネ設備の設置、運用、保守(O&M)においては、一般的な建設・土木工事に加え、以下のような再エネ事業特有の安全リスクが存在します。
1. 高所作業
- 太陽光発電: 屋根上設置、高所架台設置などにおける墜落・転落リスク。
- 風力発電: タワーの組立、ナセル・ブレードの設置、タワー内外でのO&Mにおける超高所作業(地上数十メートルから百数十メートル以上)での墜落・転落リスク。タワー内部の昇降装置利用時のリスク。
2. 電気設備に関するリスク
- 全般: 発電設備や蓄電池設備など、高電圧を扱う設備周辺での感電リスク。活線作業(通電状態での作業)時のアークフラッシュや感電リスク。
- 太陽光発電: パネルや配線の接続作業、パワーコンディショナー設置・メンテナンス時の感電リスク。日照がある限り発電するため、予期せぬ通電リスク。
3. 重量物運搬・設置
- 全般: パネル、蓄電池ユニット、パワーコンディショナーなどの重量機器の運搬、吊り上げ、設置に伴う落下、挟まれ、転倒リスク。
- 風力発電: ブレード、ナセル、タワーセクションといった巨大・超重量部材の輸送、クレーンによる吊り上げ・組立作業におけるバランス崩壊、落下、接触事故リスク。
4. 自然条件への対応
- 全般: 強風、落雷、大雨、積雪、凍結など、天候による作業中断や事故リスク。地形(傾斜地、軟弱地盤)による重機や資材運搬時のリスク。地震や台風による設備倒壊・破損後の撤去・復旧作業リスク。
- 洋上風力: 波浪、潮流、塩害など、海洋環境特有のリスク。
5. 特殊機材の使用
- 風力発電: 大型クレーン(クローラークレーン、タワークレーン)、高所作業車など、特殊かつ大型の建設機械・車両の使用に伴う操作ミス、転倒、接触事故リスク。
- 地熱発電: 掘削リグ、高温・高圧蒸気配管、化学物質(硫化水素など)取り扱いに関するリスク。
6. 地盤・基礎工事に伴うリスク
- 全般: 地方特有の多様な地盤条件における掘削、基礎杭打ち、コンクリート打設など、土木工事全般に共通するリスク(崩落、埋没、重機事故など)に加え、再エネ設備の構造や重量に応じた特別な配慮が必要となるリスク。
建設・土木業が取り組むべき安全管理策
これらのリスクに対し、建設・土木業がこれまでの経験を活かしつつ、再エネ事業向けに強化すべき安全管理策を以下に示します。
1. リスクアセスメントと作業計画
プロジェクトの各段階(計画、設計、資材搬入、設置、O&M)において、潜在的な危険源を特定し、リスクの評価を行うことが出発点です。リスクアセスメントに基づき、具体的な作業手順、必要な安全対策(保護具、足場、玉掛方法、重機の選定・配置など)、緊急時の対応計画を盛り込んだ詳細な作業計画を策定します。特に、高所作業、電気作業、重量物作業については、専門知識を持つ担当者を含めて計画を十分に検討します。
2. 安全教育と資格取得
再エネ設備特有のリスクに対応するため、作業員への専門的な安全教育を徹底します。高所作業特別教育、低圧/高圧電気取扱特別教育、大型車両系建設機械運転技能講習、玉掛け技能講習など、必要な資格や特別教育の取得を推進し、記録を管理します。協力会社の作業員についても、同様の安全教育が行われていることを確認します。
3. 保護具の使用徹底
ヘルメット、安全帯(フルハーネス型)、安全靴、保護メガネ、絶縁手袋、難燃性作業服など、作業内容に応じた適切な保護具の選定と、その正しい使用方法、着用の徹底を義務付けます。特に高所作業におけるフルハーネス型の安全帯の使用、電気作業における絶縁保護具の使用は極めて重要です。
4. 作業手順の遵守と安全確認
策定した作業計画に基づき、定められた手順を厳守させます。作業開始前には危険予知活動(KY活動)を行い、その日の作業における潜在リスクと対策を作業員全員で共有・確認します。作業中も安全監視員を配置するなど、作業状況の確認と指導を行います。
5. 作業間の連絡調整
複数の班や協力会社が同時に作業を行う場合、作業間の干渉による事故を防ぐため、密な連絡調整を行います。特に、クレーン作業エリア、電気作業エリア、通路など、危険が隣接する場所での作業調整は重要です。
6. 設備の点検と保守
使用する重機、工具、安全帯、足場などの設備・資材は、使用前の点検を徹底し、不備があれば使用を禁止します。定期的なメンテナンスも計画的に実施します。
7. 非常時の対応計画
事故発生時の応急処置、負傷者の搬送、関係機関への連絡、作業停止、二次災害防止などの具体的な手順を定めた非常時対応計画を策定し、関係者間で共有します。必要に応じて訓練も実施します。
8. 協力会社との連携
再エネ事業では複数の専門工事業者が連携して作業を行うことが一般的です。協力会社を含めた全員が共通の安全基準と認識を持って作業に臨めるよう、事前の安全協議会開催、安全管理体制の確認、作業間の連絡調整ルールの明確化などが重要です。元請けとして、協力会社の安全管理状況を確認し、指導する責任があります。
関連法規・基準
再エネ事業における安全管理は、労働安全衛生法及び関連政省令、労働安全衛生規則、電気事業法、建築基準法など、様々な法規や基準に準拠する必要があります。例えば、高所作業に関する規定、特定機械(クレーン等)に関する規定、電気工事に関する技術基準などが該当します。これらの法規・基準の内容を正しく理解し、遵守することが求められます。地方自治体独自の条例やガイドラインも確認が必要です。
安全管理体制の構築
会社として、再エネ事業における安全管理を推進するための組織体制を構築することが望ましいです。安全担当部署の設置、各現場における安全責任者・管理者・推進者の配置、安全教育の実施計画、安全パトロールの実施、事故・ヒヤリハット事例の収集・分析・再発防止策の展開など、継続的な安全管理活動を推進するための仕組みを構築します。
まとめ
地方での再エネ事業は大きな可能性を秘めていますが、安全管理は事業成功の基盤であり、決して軽視できない要素です。建設・土木業が持つ高い技術力と安全管理の経験は再エネ事業においても大きな強みとなりますが、再エネ設備特有のリスクに対する理解と、それに応じた専門的な安全管理策の導入・強化が不可欠です。
適切なリスクアセスメント、詳細な作業計画、専門的な安全教育、現場での徹底した安全管理、そして関連法規の遵守を通じて、従業員の安全を守り、地域からの信頼を得て、再エネ事業を成功に導くことができます。安全管理への投資は、事故による損失を防ぎ、長期的に事業の安定と成長を支える重要な経営判断と言えるでしょう。