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再エネ設備導入における保険・保証:建設・土木業が知るべきリスク対策と選択肢

Tags: 再エネ, リスク管理, 保険, 保証, 建設業, 土木業

はじめに:再エネ事業におけるリスクと保険・保証の重要性

地方における再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入事業は、地域経済の活性化やエネルギー自給率の向上に貢献する一方で、様々なリスクを伴います。自然災害、設備の故障、建設時の事故、第三者への損害など、予期せぬ事態が発生する可能性はゼロではありません。これらのリスクに対して適切に備えるためには、保険や保証の活用が不可欠です。

建設・土木業の皆様が再エネ分野へ参入・事業拡大を検討される際、設備の設計・施工技術はもちろん、事業リスクを管理するための保険・保証に関する知識も重要な要素となります。本稿では、再エネ設備導入における主なリスク、それに対応するための保険・保証の種類、および建設・土木業の視点から押さえておくべきポイントについて解説します。

再エネ設備導入事業における主なリスク

再エネ設備の導入事業は、そのフェーズ(計画・設計、建設・設置、運用・保守)に応じて様々なリスクに直面します。

  1. 建設・設置フェーズのリスク:

    • 工事中の事故: 作業員の負傷、第三者への損害、建設中の設備損壊など。
    • 自然災害: 台風、洪水、地震、落雷、積雪などによる設備や建設資材の損壊。
    • 資材の盗難・紛失: 建設現場での資材や機材の盗難、紛失。
    • 工期遅延: 予期せぬ事態による建設スケジュールの遅延に伴う費用増。
    • 設計・施工ミス: 設計不良や施工不良による設備性能の低下または損壊。
  2. 運用・保守フェーズのリスク:

    • 設備の故障: パネル、パワコン、タービンなどの主要機器やその他の設備の突発的な故障。
    • 自然災害: 運用中の設備が自然災害により損壊。
    • 性能低下: 経年劣化や外部要因による発電・売電性能の低下。
    • 第三者への損害: 設備の損壊が原因で近隣住民や財産に損害を与える場合。
    • 売電収入の減少: 設備停止や性能低下による売電収入の損失。

これらのリスクは、事業継続性や収益性に大きな影響を及ぼす可能性があります。

再エネ設備に関連する保険の種類

これらのリスクに対応するために、再エネ設備導入事業では複数の種類の保険が活用されます。建設・土木業の視点から特に重要ないくつかの保険を以下に示します。

  1. 工事保険 (Construction All Risks / EAR):

    • 対象: 建設現場における工事目的物(設備、資材)や工事用仮設物、周辺財産の損壊など。
    • リスク: 火災、爆発、自然災害(台風、洪水、雪害、地震など、補償範囲による)、作業ミス、盗難など、工事期間中に発生するほとんどの偶然な事故による損害を包括的に補償します。
    • 建設・土木業への関連: 建設工事を請け負う主体が加入することが一般的であり、工事中の予期せぬ事故による損害から自社および発注者を守る上で最も基本的な保険です。
  2. 賠償責任保険 (Liability Insurance):

    • 対象: 建設作業中や設備運用中に、第三者(近隣住民など)の身体や財産に損害を与えた場合の法律上の損害賠償責任。
    • 種類:
      • 請負業者賠償責任保険: 建設工事の実施に起因して発生した対人・対物事故による賠償責任を補償します。
      • 施設賠償責任保険: 再エネ設備の設置場所に起因して発生した事故による賠償責任を補償します(例:設備からの出火や飛来物による近隣への損害)。
    • 建設・土木業への関連: 建設現場での事故はもちろん、引き渡し後の設備に起因する事故についても賠償責任を問われる可能性があるため、不可欠な保険です。
  3. 財物保険 (Property Insurance):

    • 対象: 稼働中の再エネ設備自体に発生した損害。
    • リスク: 火災、落雷、風災、水害、雪災、外部からの飛来物、盗難、機械的・電気的事故など。
    • 建設・土木業への関連: O&M(運用・保守)事業を担う場合や、自社で再エネ設備を保有・運用する場合に必要となります。
  4. 利益保険 / 売電収入保険 (Business Interruption Insurance):

    • 対象: 設備損壊等により運転が停止または出力が低下した場合に発生する、売電収入の減少による損失。
    • 建設・土木業への関連: EPC(設計・調達・建設)契約において、工期遅延による売電開始の遅れに伴う損失に対する補償を求められる場合や、O&M事業者が設備の早期復旧責任を負う場合にその重要性を理解しておく必要があります。

これらの保険は、事業規模やリスク特性に応じて適切な補償内容を選択することが重要です。保険会社や保険代理店と十分に相談し、必要なリスクが網羅されているかを確認する必要があります。

再エネ設備に関連する保証の種類

保険とは別に、設備の導入においては様々な「保証」も存在します。これらは主に設備の性能や品質に関するものです。

  1. メーカー保証:

    • 対象: 太陽光パネル、パワーコンディショナ、風力タービン、蓄電池などの主要機器の性能や品質。
    • 種類:
      • 製品保証: 一定期間内の製品の物理的な欠陥に対する保証(例:10年間のパネル製品保証)。
      • 性能保証: 一定期間経過後も特定の出力レベルを維持することを保証(例:25年間のパネル出力保証で、〇年後に購入時の〇%以上の出力を保証)。
    • 建設・土木業への関連: 導入する設備の品質は、事業の長期的な収益性に直結します。信頼性の高いメーカーの製品を選定し、その保証内容を理解することは、EPC業者として顧客への説明責任を果たす上でも重要です。
  2. EPC保証 / 工事保証:

    • 対象: EPC業者が行った設計や工事の品質。
    • 内容: 引き渡し後一定期間内に発見された設計・施工上の瑕疵に対する補修責任など。
    • 建設・土木業への関連: EPC事業者として、自社の設計・施工に対する保証内容を明確にし、契約で定める必要があります。
  3. 性能保証 (Performance Guarantee):

    • 対象: 設備全体の発電性能など、プロジェクト全体の性能目標。
    • 内容: EPC契約やO&M契約において、一定期間内の発電量目標などを保証する場合があります。目標未達の場合、EPC業者やO&M業者が違約金支払いの責任を負うことがあります。
    • 建設・土木業への関連: 特にEPC契約や長期的なO&M契約を結ぶ際に、保証範囲や責任範囲を慎重に検討する必要があります。

建設・土木業が押さえるべきポイント

再エネ分野への事業参入を検討する建設・土木業の皆様が、保険・保証に関して特に意識すべき点をまとめます。

  1. 工事保険・賠償責任保険の適切な加入:

    • 自社の建設工事におけるリスクを適切に評価し、工事保険や賠償責任保険で必要な補償を確保することが基本です。特に再エネ設備のような特殊な構造物や高所作業、電気設備工事など、建設・土木分野とは異なるリスク要素も考慮が必要です。
    • 請負契約においては、発注者側が特定の保険加入を義務付けている場合があるため、契約内容をよく確認してください。
  2. 発注者との保険・保証に関する取り決め:

    • EPC契約等において、どのリスクをどちらの当事者が保険でカバーするのか、メーカー保証やEPC保証の範囲、責任期間などを明確に定めることが重要です。
    • 特に自然災害リスクや性能低下リスクに関する取り決めは、後のトラブルを避ける上で不可欠です。
  3. O&M事業における保険の検討:

    • 設備の運用・保守事業にも参入する場合、運用中の設備損壊に対応する財物保険や、売電収入の損失を補償する利益保険の重要性が増します。
    • また、O&M作業中の事故に対する賠償責任保険も必要となります。
  4. 保険料・保証コストの事業費への織り込み:

    • 保険料や保証に係るコストは、再エネ事業の全体コストの一部です。事業計画や見積もり段階で適切に織り込む必要があります。
  5. 専門家(保険代理店等)との連携:

    • 再エネ設備に関連する保険商品は多岐にわたり、その補償内容や適用範囲は複雑な場合があります。再エネ分野に知見のある保険代理店やリスクコンサルタントと連携し、適切な保険設計を行うことが推奨されます。

まとめ

地方における再エネ設備導入事業の成功には、技術力や地域との連携に加え、リスク管理が不可欠です。建設・土木業の皆様がこの分野で事業を展開される際には、工事保険や賠償責任保険といった従来の建設業で活用されている保険に加え、再エネ設備特有のリスクに対応するための財物保険や利益保険、そしてメーカー保証やEPC保証といった各種保証についても十分な理解が必要です。

適切な保険・保証の活用は、予期せぬ事態による事業の中断や経済的損失を防ぎ、事業の継続性と信頼性を高める上で重要な役割を果たします。本稿が、皆様の再エネ事業におけるリスク対策検討の一助となれば幸いです。