地方での再エネ導入における蓄電池システムの役割と事業機会:建設・土木業が知るべきポイント
はじめに
再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が全国的に進む中、その不安定性という課題を補う技術として、蓄電池システムへの注目が高まっています。特に地方においては、地域レジリエンスの向上や電力系統の安定化といった観点からも、蓄電池システムの重要性は増しています。
地方で建設業などを営み、再エネ分野への事業参入や多角化を検討されている皆様にとって、蓄電池システムは新たな事業機会となり得ます。本稿では、再エネ導入における蓄電池システムの役割、地方における事業機会、そして事業化を検討する上で押さえておくべきポイントについて解説します。
再エネ導入における蓄電池システムの役割
太陽光発電や風力発電といった変動型再エネは、天候や時間帯によって発電量が大きく変動します。この不安定性は、電力系統の安定運用における課題となります。蓄電池システムは、この課題を解決するための重要な鍵となります。
主な役割は以下の通りです。
- 発電量の安定化: 発電量が需要を上回る際に充電し、下回る際に放電することで、出力変動を平滑化し、安定した電力供給を可能にします。
- 自家消費率の向上: 発電した電力を蓄電池に貯蔵し、発電がない時間帯に利用することで、電力会社からの購入電力量を削減し、電気料金の削減に貢献します。
- 電力系統への貢献: 需要の高い時間帯に放電したり、周波数調整に協力したりすることで、電力系統全体の安定化に寄与します。これは特定のライセンスや設備が必要となる場合もあります(例: VPP - Virtual Power Plant)。
- BCP(事業継続計画)対策: 停電時などに蓄電池から電力を供給することで、事業所や住宅の機能を維持できます。地方においては、災害時の自立電源としての役割が特に重要です。
- ピークカット・ピークシフト: 電力需要のピーク時に放電することで、契約電力を抑えたり、割安な夜間電力などを充電して昼間に使用したりすることで、電気料金の削減に繋げます。
地方における蓄電池システム関連の事業機会
地方の建設・土木業が、蓄電池システムの分野でどのような事業機会を捉えられるか検討します。
- 再エネ発電設備との連携設置: 太陽光発電設備などとセットでの設計・施工・設置請負。基礎工事や設置工事は建設業の既存スキルが活かせます。特に法人や自治体施設、メガソーラーなどでの需要が見込まれます。
- 既設設備への後付け設置工事: 既に設置されている太陽光発電設備などに対し、自家消費率向上やBCP対策を目的とした蓄電池の後付け設置工事。配線工事や設置場所の確保など、電気工事や建築・土木知識が求められます。
- 地域マイクログリッドへの参画: 地域の再エネと蓄電池、需要家を結ぶマイクログリッド構築事業。配電網の整備や設備設置において、土木・建設技術が不可欠です。災害に強い地域づくりに貢献できます。
- メンテナンス・保守サービス: 設置された蓄電池システムの定期点検やメンテナンス、修理サービス。設備の安定稼働には専門知識と定期的な点検が不可欠であり、継続的な収益源となり得ます。
- VPP(Virtual Power Plant)関連事業との連携: 蓄電池を遠隔制御し、電力系統の調整力として活用するVPP事業。アグリゲーター事業者と連携し、設置工事やメンテナンスを担う可能性があります。
- 補助金・助成金活用支援: 国や自治体の蓄電池導入に関する補助金・助成金制度は多数存在します。顧客への制度紹介、申請サポートなども付加価値の高いサービスとなり得ます。
事業化に向けた検討ポイント
蓄電池システム関連事業への参入を検討する上で、押さえておくべき技術的・法規的・市場的なポイントを以下に挙げます。
1. 技術的な知識
- 蓄電池の種類と特性: 主にリチウムイオン電池が主流ですが、NAS電池、鉛蓄電池、フロー電池など、種類によって特性(寿命、エネルギー密度、出力密度、安全性、コスト)が異なります。用途や規模に応じた最適な種類を選定できる知識が必要です。
- システム構成要素: 蓄電池本体に加え、PCS(パワーコンディショナ)、BMS(バッテリーマネジメントシステム)、EMS(エネルギーマネジメントシステム)など、システム全体の構成要素とそれぞれの役割を理解する必要があります。
- 設置・工事に関する技術: 設置場所の選定(温度、湿度、換気、基礎)、基礎工事、重量物運搬・設置、電気配線工事、PCSやEMSとの連携設定など、安全かつ適切に設置するための技術が必要です。建築・土木分野で培った基礎知識や施工管理能力が活かせます。
- 容量計算とシステム設計: 導入目的に応じた適切な蓄電容量や出力、システム構成を設計する能力が求められます。自家消費率向上、BCP対応、ピークカットなど、目的によって必要な容量や機能が異なります。
2. 法規・制度に関する知識
- 電気事業法: 電気工作物の設置に関する規定など。
- 消防法: 蓄電池の種類や容量によっては、危険物として規制の対象となる場合があります。設置場所の構造や消火設備の設置などが厳しく定められています。
- 建築基準法: 建築物への設置に関する規定。
- FIT/FIP制度: 再エネ発電設備との併設の場合、売電との兼ね合いや、蓄電池への充電方法(再エネ由来か系統由来か)によって、FIT/FIPの適用に影響が出る場合があります。
- 系統接続ルール: 蓄電池を電力系統に接続する場合、電力会社との協議や技術基準への適合が必要です。
- 各種補助金・税制優遇: 国や自治体が実施する蓄電池導入支援制度の情報を常に把握し、活用できる知識が重要です。
3. 市場動向と需要
- 法人・産業用: 工場、倉庫、オフィスビル、商業施設などでのBCP対策、電気料金削減(ピークカット・ピークシフト)、再エネ自家消費拡大を目的とした導入が増加しています。
- 自治体・公共施設: 避難所や重要施設のBCP対策、地域マイクログリッド構築の核としての導入が進んでいます。
- 住宅用: 太陽光発電のFIT期間終了後の自家消費拡大、災害対策としての需要があります。
- EV(電気自動車)関連: EVの普及に伴い、V2H(Vehicle-to-Home)システムなど、EVを蓄電池として活用する動きも出てきています。
- 地方においては、特定の産業集積地での工場・倉庫向け需要、観光施設でのBCP対策需要、過疎地域でのマイクログリッド需要など、地域特性に応じた市場機会が存在します。
4. その他
- 安全対策: 蓄電池、特にリチウムイオン電池は火災リスクなどが指摘されています。適切な設置工事、運用管理、定期点検、安全基準の遵守が極めて重要です。
- 人材育成: 蓄電池システムに関する専門知識を持つ人材の育成または確保が必要です。既存の電気工事士や施工管理技士のスキルアップが考えられます。
- サプライチェーン: 信頼できる蓄電池メーカーやPCSメーカーを選定し、安定的な製品供給と技術サポートを受けられる体制構築が重要です。
建設・土木業の強みを活かす
建設・土木業は、建物やインフラの建設を通じて地域に根差した事業を展開しており、以下の点が蓄電池システム関連事業への参入において強みとなります。
- 地域ネットワーク: 地域の企業、自治体、住民との信頼関係があり、事業開発や情報収集に有利です。
- 施工管理能力: 大規模な設備の設置やインフラ整備におけるプロジェクト管理、安全管理、品質管理のノウハウを持っています。
- 基礎・設置工事の技術: 蓄電池システム本体やPCSなどの機器設置に必要な基礎工事や躯体工事、設置工事は既存のコア技術です。
- 電気工事との連携: 関連会社や協力会社との連携により、電気配線工事やシステム連携工事にも対応しやすい体制を構築できます。
まとめ
再エネの主力電源化が進む中で、蓄電池システムは電力の安定供給、自家消費拡大、BCP対策、系統安定化に不可欠な技術です。地方においても、地域レジリエンス向上や経済性向上への貢献が期待されており、関連事業の機会は拡大しています。
地方の建設・土木業の皆様は、既存の技術や地域ネットワークを活かし、蓄電池システムの設置工事、再エネ設備との連携提案、メンテナンス、地域マイクログリッドへの参画といった様々な事業機会を捉えることが可能です。
事業参入にあたっては、蓄電池に関する技術的な知識、関連法規や制度への理解、そして安全対策への十分な配慮が不可欠です。情報収集を進め、必要に応じて専門家やメーカーとの連携を深めることで、新たな事業の柱を築くことができるでしょう。当サイトでは、今後も蓄電池システムに関する詳細情報や関連する支援制度などについて、有益な情報を提供してまいります。